- 社内のAIシステムには7つの層があります。自社で決めなかった層は、ベンダーが代わりに決めます。
- クラウドか社内設置かは層ごとに別々に決められます。ただし、権限を管理する層と記録を残す層は自社側に置くべきです。
- まず業務をひとつ選び、何をもって合格とするかを先に決め、データの側から積み上げます。
ひとつのAIシステムには7つの層がある
新しい支店を開くときを考えてください。店舗、マネージャー、スタッフ、書類棚、倉庫への直通回線、承認ルール、月末の報告書が要ります。AIシステムにも同じ部品がそろっていて、それぞれをクラウドで借りるか、オンプレミスとして社内に置くかを選べます。
この章の図は、上から下へ積み重なった5つの層です。チャネル、オーケストレーション、モデル、ナレッジ、データと業務システムです。そして、すべての層に触れる2本の柱として、制御と効果測定があります。質問はデータに向かって下へ流れ、答えは層をまたぐたびに制御の柱を通って上へ戻ります。
第1層 チャネル:人が質問を入力する場所
チャネルとは、LINE、Web、アプリ、メールのことです。IT部門は、どのチャネルから始めるか、入力しているのが誰かをどう確かめるかを決めます。最初のチャネルには、社員がすでに使っている場所が向いています。よくある失敗は、社員アカウントと結びつかないチャネルを選ぶことです。これでは、誰に何を見せてよいかをシステムが判断できません。LINEのメッセージは必ずLINEのサーバーを通ります。データを社外に出せない場合は、SSOでログインする社内Webを使い、LINEは通知だけに使います。
第2層 オーケストレーション:次の手順を誰が決めるか
オーケストレーションは、文書を検索するか、システムを呼ぶか、モデルに聞くか、人に渡すかを判断します。ワークフローエンジンは書かれた順番どおりに進み、エージェントループはモデル自身に次の手順を選ばせます。IT部門は、どの業務にどちらを使うかを決めます。毎回手順が同じ業務はワークフローにします。検証しやすく、モデルの利用料も抑えられます。よくある失敗は、回数の上限を設けずにすべての業務をエージェントで動かすことです。この層は社内にも置けます。たとえばKubernetes上のLangChainです。複数のエージェントを組み合わせた例は、マルチエージェントの業務基盤をご覧ください。
第3層 モデル:クラウドか、プライベートか、その両方か
クラウド側には、Claude、GPT、Geminiの法人向けプランがあります。性能が高く、機器の管理も要りませんが、文章は社外に出ます。自社で動かす側には、vLLMやOllama上のLlama、QwenといったプライベートLLMがあります。データは社内に残り、その代わりにハードウェアの管理が必要です。IT部門は、モデルルーティングでどの業務をどのモデルに送るかを決めます。顧客データを含む業務は社内のモデルへ、一般的な業務はクラウドへ送ります。よくある失敗は、コードを一社のモデルに縛りつけることです。詳しくはAI事業者を一社に絞らない理由とプライベートAIという選択肢をご覧ください。
第4層 ナレッジ:AIが答えに使う文書
システムは答える前に、RAGで文書を検索します。文書は意味を表す数値、つまりエンベディングに変換され、ベクトルデータベースに保存されます。IT部門は、どの版が正式か、誰が管理するか、誰が何を見てよいかを決めます。スキャンした書類にはOCRが必要です。また、タイ語の文書は単語の間にスペースを入れないため、意味による検索と単語による検索を組み合わせます。よくある失敗は、共有ドライブを丸ごと取り込み、古い版と新しい版が混ざることです。この層はすべて社内に置けます。たとえばElasticsearchと自社のエンベディングモデルの組み合わせです。
第5層 データと業務システム:API、MCP、RPA
AIがERP、CRM、会計システムにアクセスする方法は3つあります。APIは、システムがほかのプログラムからの呼び出しのために開いている窓口です。MCPはAPIを包み、AIが自分で選んで使えるようにします。RPAは、APIのない古いシステムで、人の代わりに画面を操作します。IT部門は、AIに読み取りだけを許すか書き込みも許すか、そしてデータごとの正本がどこにあるかを決めます。よくある失敗は、管理者アカウントひとつですべてのシステムに入らせることと、画面が変わるたびに止まるRPAに頼ることです。接続部分は、モデルがクラウドにあってもERPと同じネットワーク内で動かします。詳しくは新しいアプリをERPや既存データとつなぐ方法をご覧ください。
第6層 制御:権限、承認、記録
この層は、誰が何を質問できるか、AIがどのツールを呼べるか、どの業務に承認ポイントが必要か、ガードレールが何を検査するかを定め、すべての手順を監査ログに記録します。文書に紛れ込んでAIにこっそり指示を出すプロンプトインジェクションを防ぐのも、この層です。IT部門は、AIの権限を質問者本人と結びつけるかどうかを決めます。Active Directory経由で結びつければ、システムは質問者が見られる範囲を超えて見ることはありません。よくある失敗は、プロンプトに「給与を開示しないこと」と書いて制御したつもりになることです。制御はモデルの外のコードで行い、常に自社側に置きます。
第7層 効果測定:答えは正しいか、1件あたりいくらか
中心となるのは、自社の実際の業務の例を使ったテストです。稼働前に行い、モデル、文書、プロンプトを変えるたびにやり直します。あわせて、人が直した答えと1件あたりのコストを示すダッシュボードを用意します。IT部門は稼働前に、誰が答えを確認するか、合格基準は何かを決めます。よくある失敗は、稼働後に測定を始めることです。クラウドのモデルは文章の量で課金され、プライベートLLMは機器の固定費です。そのため1件あたりの数字を見れば、どの業務をどちら側に移すべきかがわかります。
MCPとAPIの違い
オフィスビルを思い浮かべてください。APIは番号のついた部屋の扉で、どの扉をどの順で開けるかは、プログラマーが前もって書いておきます。MCPはエレベーター前の案内板で、各部屋で何ができるかが書いてあります。AIはそれを読み、質問に合わせて自分で部屋を選びます。
公式ドキュメントによると、MCP(Model Context Protocol)は、AIアプリケーションを外部のシステムにつなぐためのオープンな標準です。AIアプリケーションがホストとなり、サーバー1つにつきクライアントを1つ作ります。サーバーは、操作のためのTools、読み取りのためのResources、指示のひな形であるPromptsを提供します。各ツールには、名前、説明、受け取るデータの形式があります。
接続先システムの認証情報はMCPサーバーが持ち、モデルからは見えません。多くのMCPサーバーはERPの既存APIを包む形で作られるため、今あるAPIをそのまま使い続けられます。MCPに対応したAIアプリケーションなら、どれも同じサーバーを使えます。毎晩その日の売上を会計システムに送るような、手順が決まっている処理は、ワークフローからAPIを直接呼びます。質問に応じてAIがシステムを選ぶ必要があるなら、MCPを使います。権限の管理は、引き続き第6層の役割です。
構築の順番:データから画面へ
多くのプロジェクトはチャット画面から始め、あとになってデータと権限でつまずきます。より安全な順番は次のとおりです。
1. 業務をひとつ選び、コードを書く前に、誰が答えを確認し、何をもって合格とするかを決めます(第7層)。 2. どのデータなら社外に出せるか、AIがどのシステムに触れるかを決めます(第6層と第5層)。この答えで、第3層と第4層をどちら側に置くかが決まります。 3. 文書ごとに管理者と最新版を決めます(第4層)。 4. モデルとルーティングのルールを選びます(第3層)。 5. ワークフローから始め、あとでエージェントループを加えます(第2層)。 6. 社員がすでに使っているチャネルをひとつだけ開きます(第1層)。
架空のケース
ラヨーン県の自動車部品工場(社名も詳細も架空です)は、ライン長が作業手順や顧客仕様をすぐに質問できるようにしたいと考えました。顧客の部品図面は、契約上、工場の外に出せません。そこでIT部門は工場内にプライベートLLMを置きました。チャネルは各ラインのタブレットで開く社内Webで、LINEは承認待ちの作業を知らせるだけです。ERPは読み取り専用のMCPサーバーでつなぎ、書き込みは品質管理の責任者が確認する不良報告の下書きだけに限りました。
品質管理チームは、日々の業務で実際に出る質問でシステムをテストしました。最初の評価では、ライブラリに紛れていた古いマニュアルからシステムが答えていました。チームは使用中の版だけを残し、すべての答えに版番号を表示し、基準を満たすまで再テストしてから、最初のラインに公開しました。
層ごとにひとつの質問
- 答えられない層があれば、先に進まないでください。
第1層: システムを使う人は、今どこで質問を入力していますか?
第2層: この業務の手順は決まっていますか? それとも前の手順の結果で変わりますか?
第3層: モデルを通るデータのうち、最も機密性が高いのはどのレベルですか?
第4層: どの版が正式で、誰が管理していますか?
第5層: AIは読むだけですか? それともシステムに書き込みますか?
第6層: AIが誤ったとき、誰が止め、どう元に戻しますか?
第7層: 誰が答えを確認し、合格基準は何ですか?
| 層 | 決めること | クラウド | オンプレミス | よくある失敗 |
|---|---|---|---|---|
| 1 チャネル | 最初のチャネル、本人確認 | LINE OA、Webチャット | SSOでログインする社内Web | 社員アカウントと結びつかない |
| 2 オーケストレーション | ワークフローかエージェントループか | クラウドのワークフロー | Kubernetes上のLangChain | 全業務をエージェントで動かし、回数の上限がない |
| 3 モデル | どの業務をどのモデルに送るか | Claude、GPT、Gemini | vLLM上のLlama、Qwen | コードを一社のモデルに縛る |
| 4 ナレッジ | 正式な版、管理者、閲覧権限 | クラウドの文書検索 | 社内のElasticsearch | 古い版と新しい版が混ざる |
| 5 データと業務システム | 読み取りか書き込みか、正本の場所 | SaaSのコネクタ | ERPの隣に置くMCPサーバー | 管理者アカウントひとつで全部に入る |
| 6 制御 | 質問者に結びつく権限、承認ポイント | 事業者のフィルター | Active Directory、監査ログ | プロンプトを制御の代わりにする |
| 7 効果測定 | 答えの確認者、合格基準 | 事業者のレポート | ダッシュボード、社内でのテスト | 稼働後に測り始める |
AIの設計を承認する前に確認する8項目
- 図に7つの層がすべてあり、各層にシステム名か事業者名が書かれている
- 個人データが社外に出る箇所が、タイの個人情報保護法(PDPA)に照らして示されている
- AIは質問者の権限を超えるデータを見られない
- 書き込みツールは読み取りツールと分かれ、承認ポイントがある
- 監査ログに、実際の利用者、呼び出したツール、結果が残る
- 構築を始める前に、実際の業務の例で試す方法と合格基準が決まっている
- ほかの層を作り直さずにモデルを替えられる
- 1件あたりのコストを初日から測れる
開発チーム向け · MCPサーバーとRESTエンドポイント、ID伝播、最小権限
RESTエンドポイントは、ドキュメントに沿って書かれたコードから呼ばれます。MCPサーバーはJSON-RPC 2.0でツールを公開し、クライアントはtools/listで名前、説明、inputSchemaを受け取ってからtools/callを呼びます。つまりツールの説明はモデルのコンテキストに入るため、外部のサーバーは導入前に中身を確認します。ID伝播:サーバーはSSOから得た利用者のIDで権限を判断し、接続先APIは自分に発行されたトークンで呼びます。MCPの仕様は、トークンのパススルーを禁じています。最小権限:読み取りツールと書き込みツールを分け、ワイルドカードのスコープは使わず、書き込みツールは承認ポリシーかElicitationを通します。stdioのサーバーはサンドボックスで動かし、すべてのツール呼び出しを利用者とともに記録します。
私たちはタイの拠点向けに7つの層をこう設計します
どの文書が正式な版で、誰が何を承認できるかを知っているのは御社のチームです。DNA Makerはまず、IT部門と業務の責任者と一緒に座り、モデルを選ぶ前に7つの層を一枚の紙に描きます。どのレベルのデータがどの層を通るか、どこで人の承認が要るかも書き込みます。
御社と働くのはDNA Maker自身のチームで、外注はしません。毎週デモをご覧いただけます。データを社外に出せない場合は、vLLM上のLlamaやQwenでプライベートLLMを構築し、ElasticsearchとActive Directoryも合わせて導入します。クラウドを使える場合は、制御の層とMCPの接続部分を御社側に置きます。承認ポイントと監査ログは最初のバージョンから入れます。範囲と価格は着手前に確定し、ソースコードと文書は契約の範囲に沿って納品します。これは私たちが銀行、病院、タイの大手企業グループに提供している種類の仕事です。プライベートLLMとAIワークフローのページから、またはチャットページのDreamにご相談ください。
SOFTWARE ENGINEERING GLOSSARY
ソフトウェア開発用語集
| 用語 | 意味 | わかりやすい例 | 開発チームへの質問 |
|---|---|---|---|
| MCP | AIアプリケーションがほかのシステムのツールを見つけて呼び出すためのオープンな標準 | AIアシスタントが自分の判断でERPの在庫を確認する | MCPサーバーは誰の権限で動いていますか? |
| RPA | APIのないシステムで、人の代わりに画面を操作するソフトウェア | ボットが請求書を古い会計ソフトに入力する | 画面が変わったら、誰が直しますか? |
| エンベディング | 文章の意味を表す数値。意味で検索するときに使う | 「産休」と聞くと「出産のための休暇」の条項が見つかる | エンベディングモデルはどこで動き、タイ語をどこまで正しく読めますか? |
| モデルルーティング | 難しさと機密性に応じて、業務を適したモデルに送る仕組み | 顧客名を含む質問は社内のモデルへ送る | 振り分けのルールは誰が変えられますか? |
