ARTICLE 09 · AI PRODUCT · 2026-06-14

マルチエージェントの業務プラットフォーム:役割の違う複数のAIが、明確なワークフローと責任分担のもとで協力する

エージェントの数を増やしても、システムが自動的に賢くなるわけではありません。役割ごとに使うツールとデータが決まり、次の担当へ仕事を渡すポイントが明確になって、はじめて効果が出ます。

マルチエージェントの業務プラットフォーム:役割の違う複数のAIが、明確なワークフローと責任分担のもとで協力する
要点
  • 1つのAIに何もかも任せるのは、1人の社員に5つのポジションを兼任させるようなものです。何か問題が起きても、どこで間違えたのか見つけられません。
  • 複数のAIに分けるなら、仕事を割り振って結果をまとめる「リーダー役」と、何を誰に渡すのかを明記した引き継ぎ表が必要です。AI同士の話し合いに任せきりにしてはいけません。
  • 物差しは、仕事が欠けなく顧客の手元まで届くかどうかで、AIの数は何の目安にもなりません。分けても安全性が上がらず、確認もしやすくならないなら、分けないでおきます。

従来のWebサイトやアプリの限界

顧客からの電話を受け、見積書を作り、在庫を確かめ、仕事をチェックし、値引きを承認する。これを全部同時にこなさなければならない社員を1人、想像してみてください。仕事の少ない日ならなんとかなるかもしれません。しかし何か問題が起きると、どの段階で失敗したのかたどれず、1か所を直すと全体に響くので、誰もその人の仕事のやり方に手を出せなくなります。何もかもを1つで引き受けるAIも、まったく同じ問題にぶつかります。

すべてを引き受ける1つのエージェントは、プロンプトが巨大になり、確認しにくく、必要以上に多くのツールにアクセスできてしまいます。かといって、取りまとめ役のオーケストレーターを置かずに複数のエージェントに分けると、答えが重複し、結果に責任を負う者がいなくなります。

すべてのツールを抱え込んだ1つのエージェントと、1つの中心を通じて役割を分担するエージェントのチームの比較
すべてのツールを抱え込んだ1つのエージェントと、1つの中心を通じて役割を分担するエージェントのチームの比較

1つのエージェントに、書類を読む、計画を立てる、他のシステムとやり取りする、品質を確かめる、仕事を承認する、をまとめてやらせると、コンテキストは長くなり、権限は広がり、結果が間違っていたときに原因を突き止めにくくなります。チームはプロンプトに指示を足し続け、やがて誰も手を入れられなくなります。1つの指示が、複数の役割の動きに影響してしまうからです。

マルチエージェント・プラットフォームでは、責任、ツール、データ、評価のしかたが本当に違う場合に限って役割を分けます。各エージェントは範囲の限られた仕事を受け持ち、取り決め(Contract)に沿って成果物を次のエージェントに渡します。調整役、分析役、実務担当、確認役がいるチームに似ていますが、最終的な結果に責任を負うのはやはり人です。

従来の形新しい世代のAIプロダクト
1つのチャットボットが全部署に答える、または複数のボットがばらばらに動くマネージャーエージェントが仕事を分解し、役割に応じて専門エージェントをツールとして呼び出すか引き継ぎを行い、結果をまとめ、ガードレールを確認し、各段階のトレースを記録する

エージェント同士は、自由なメッセージをやり取りするのではなく、プログラムで検証できるタスクの状態と取り決めを通じてつながる必要があります。ツールゲートウェイが役割ごとの権限を確認し、まとめて記録したトレースによって、各成果物がどのエージェントとどのデータを経由したのかがチームに見えます。

ビジネスに使える新しい機能

解決策は、AIを実際のチームのように組み立てることです。調査、計画、データの取得、実行、確認をそれぞれ担当する役を置き、依頼を受け、仕事を割り振り、結果をまとめるリーダーを1人決めます。経営者として画面で確認すべきなのは、仕事がいまどこまで進んでいるか、誰が持っているか、データがどこから来たか、どこで自分の承認を待っているかです。すべてを裏に隠したチャット欄が1つあるだけでは、どれも見えません。

プロジェクトの形

プラットフォームでは、オーケストレーターが目標を受け取ってタスクに分け、調査(Research)、計画(Planning)、データ(Data)、実務(Operation)、確認(Review)といった専門エージェントに送ります。ユーザーは、計画、進み具合、データの出どころ、承認待ちの箇所を確認できます。仕事のすべてを1つの会話画面の裏に隠すべきではありません。

主な機能

開発チーム向け · 機能一覧

機能としては、Task Board、Agent Registry、Handoff Contract、Shared Artifact、Approval Queue、Exception、Trace、Cost/Latency Monitor、Replayなどが考えられます。管理者は、どのエージェントがどのツールやデータを使えるかを設定でき、異常を見つけたら仕事全体、または特定の段階だけを止められます。

支える技術

開発チーム向け · システム構成

システムには、Orchestration Layer、State Store、Event/Job Queue、Tool/API Gateway、Identity、Policy、Observabilityが必要です。エージェントは仕事に応じて別々のモデルを使えますが、成果物は次に渡す前にスキーマの検証と評価(Evaluation)を通過しなければなりません。取り決めのないまま、エージェント同士が形式の決まっていないメッセージを送り合うと、検証も復旧も難しくなります。

効果と向いているタイミング

役割を分けると、権限を絞り、部分ごとにテストし、1つのエージェントを入れ替えても全体に影響しないようにできます。異なる知識やシステムが必要な、段階の多い仕事に向いています。1つのワークフローで片づく短い仕事には向きません。複雑さ、コスト、引き継ぎにかかる時間が、効果を上回ることがあるからです。

  • 専門エージェントは、役割に応じて知識とツールを限定する
  • マネージャー型のオーケストレーションが結果をまとめ、最終的な答えに責任を持つ
  • 適切な場面では、引き継ぎによって専門エージェントが会話を受け継ぐ
  • トレースと評価で、どのエージェントがどこで判断を誤ったかを確かめる
経営者向けのポイント:エージェントを増やすのは、役割を分けることで権限の制限、テスト、復旧がしやすくなる場合だけにしましょう。明確なワークフロー1つで片づく仕事なら、複数のエージェントを使うのは不要なコストになりかねません。

具体的な利用場面

いちばんイメージしやすいのは、今は複数の部署を回らないと終わらない仕事です。たとえば大口顧客向けの見積もりの準備には、依頼内容を読む人、過去のデータを探す人、価格を考える人、送る前にチェックする人が必要です。

エージェントの作業キューにはそれぞれ人の責任者がいて、要所を承認し、結果に責任を負う
エージェントの作業キューにはそれぞれ人の責任者がいて、要所を承認し、結果に責任を負う

新商品を発売したいという依頼を、市場調査エージェント、コンテンツエージェント、オペレーションエージェントが分担します。マネージャーエージェントは計画をまとめ、依存関係を確かめ、予算の件は人に承認を求めます。すべてのシステムを使える権限があるエージェントはいません。

架空の入札対応のケースでは、受付エージェントが要件を整理し、調査エージェントは承認済みの資料庫だけを検索し、提案エージェントが自社の対応能力と照らし合わせ、価格計算ツールが価格を出し、レビューエージェントが記載内容と抜け漏れを確認してから、承認権限のある人に回します。

価格データがそろっていなければ、オーケストレーターはその流れだけを止め、ほかの部分は先に進めます。確認担当者が記載内容を直すと、システムは、どのエージェントがそれを作り、どの出典に基づき、どの取り決めを通じて渡したのかを記録します。そのためチームは、問題がモデルにあるのか引き継ぎにあるのかを推測せずに、本当の原因を直せます。

Least-capability Agent

各エージェントには、役目を果たすのに必要な最小限のツールとデータだけを与えます。

広い権限を与えるより被害を小さく抑えられ、評価もはっきりします。

範囲、リスク、効果の測り方

何より気をつけたいのは、AIの数が多いこと自体は成果ではないという点です。分ければ分けるほど引き継ぎで失敗しうる箇所が増え、処理は遅く、費用は高くなります。問うべきことは1つだけです。仕事が顧客の手元まで最後まで届くのは、どれくらいの頻度か。分けてもこの数字が良くならないなら、まだ分ける必要はありません。

エージェントの数はKPIになりません。End-to-end Completion、Handoff Failure、Human Correction、Tool Error、Cost、Recovery Timeを測り、権限は最小権限(Least Privilege)の考え方で絞ります。複数のエージェントがメッセージを渡し合うだけで、状態(State)の責任者がいないなら、システムのリスクは増え、エージェントが1つのときよりデバッグも難しくなります。

エージェントごとの作業の記録を見れば、引き継ぎがどこで成功し、どこで失敗したかがはっきりわかる
エージェントごとの作業の記録を見れば、引き継ぎがどこで成功し、どこで失敗したかがはっきりわかる

マルチエージェントにすると、遅延、コスト、障害点が増えます。役割や権限が本当に違うときに使い、アーキテクチャを今風に見せるために使ってはいけません。

開発チーム向け · 技術指標

追跡すべき指標:End-to-end Success、Handoff Error、Tool Rejection、Cost per Outcome、Trace Coverage

  1. Discover:実際の業務を追い、通常のケースと例外の実例を集めます。
  2. Assist:人が主導権を持ったまま、AIに下書きや提案をさせます。
  3. Act:テストセットに合格してから、ツールを1つずつ使えるようにします。
  4. Scale:監視、フォールバック、コスト管理、責任者がそろってから範囲を広げます。

引き継ぎの失敗が多いとき、遅延が積み重なっているとき、全体の状態に誰も責任を持っていないときは、エージェントの数を減らします。役割をまとめたり、一部の段階を結果の決まったルールやツールに置き換えたりするほうが、たいていは保守しやすく、信頼できるシステムになります。

複数のエージェントを使うのは責任が本当に異なるときで、システムを高度に見せたいからではない

AIをもう1つ増やす前に、新しい社員を採用する前と同じことをします。そのポジションが何を担当し、どのデータを使ってよく、誰に仕事を渡し、誰が確認するのかを紙に書き出すのです。書き出してみて、2つのポジションの中身がすべて同じなら、ポジションは2つもいりません。

責任分担表(Responsibility Matrix)を作ります。どのエージェントが何を入力として受け取り、どのツールを使い、どんな形式で出力し、誰が確認し、誰が結果に責任を持つのかを書きます。2つのエージェントが同じデータ、ツール、基準を使うなら、分ける必要はないかもしれません。マルチエージェントはコストと障害点を増やすので、分けるには権限、専門性、評価のいずれかに根ざした理由が必要です。

どのエージェントが何を受け取り、どのツールを使い、誰が確認するかを、チームで責任分担表にまとめる
エージェントを増やす前に責任分担表を埋める。空欄が残る箇所には責任者がいない

引き継ぎの取り決め(Handoff Contract)を設計し、渡すコンテキスト、渡さない情報、タイムアウト、エラーの責任者を明記します。トレースと評価はエージェントごとと、最初から最後までの流れ全体の両方で行い、同時実行数とコストに上限を設けます。システムは計画を人に見せ、影響の大きい流れは止められるようにしておくべきです。

すべての役割について、入力、出力、ツール、データ、権限、評価、責任者を書いた責任分担表を作ります。2つのエージェントが同じデータ、ツール、基準を使うなら、1つにまとめるべきではないかを検討します。分けるのは、リスクが実際に下がるか、確認が実際にしやすくなる場合に限ります。

まずは、今も複数の役割の専門家が関わっていて、引き継ぎが明確な業務プロセスから始めます。最初はエージェントに1つか2つの段階だけを手伝わせ、タスクの状態を共有し、人の承認を挟みます。トレースと復旧の仕組みが動くようになってから、並行処理や自律性の範囲を広げます。1回のデモで大人数のエージェントチームを見せるところから始めるべきではありません。

01
最終的な結果に責任を持つのはどのエージェントか
02
なぜこのエージェントを分ける必要があるのか
03
必要最小限のツール権限は何か
04
引き継ぎが失敗したら誰が受け継ぐのか
DNA MAKER · PRODUCT & ENGINEERING

エージェントのチームは人のチームと同じように組む:役割、権限、リーダーを明確に

DNA Makerは、エージェントの箱をいくつも描くところからではなく、業務プロセスと責任分担のワークショップから始めます。会話と結果を誰がコントロールすべきかに応じて、マネージャーがエージェントをツールとして使う方式(Manager-as-tools)と引き継ぎ方式のどちらにするかを一緒に選び、ツールごとに人の承認ポイントとガードレールを決めます。

どのエージェントがどのツールとデータを使えるかを示す権限マップ。色分けして確認しやすくしている
どのエージェントがどのツールとデータを使えるかを示す権限マップ。色分けして確認しやすくしている

計画、ツールの呼び出し、引き継ぎ、エラーを表示する流れのプロトタイプを作り、業務の責任者に確認してもらいます。そのうえで評価セットを使い、個々のサブタスクと全体の結果の両方を測り、複数のエージェントが1つのエージェントより本当に優れているかを確かめます。

01 · Discovery02 · Product & UX03 · Engineering04 · Pilot & Improve

私たちは、お客様の実際の業務プロセスをもとに、エージェントの責任分担、引き継ぎの取り決め、人による管理の仕組みを設計します。通常のワークフローを使うべき箇所、AIが向いている箇所、結果が確定したツールにすべき箇所を見極め、状態、キュー、権限、監査のアーキテクチャも、後からさかのぼって確認できるように作ります。

開発の範囲には、オーケストレーター、専門エージェント、MCP/APIのツール、タスク管理画面、評価、オブザーバビリティ(Observability)を含められます。まずは1つの業務の流れと、一緒に決めた失敗シナリオから始めます。毎週いくつものチームのあいだを行き来する仕事があれば、実際の成果物と待ちが発生している箇所を持ってご相談ください。マルチエージェントにすべきか、ワークフローで足りるのか、両方を組み合わせるべきかを一緒に検討します。

開発チーム向け · 私たちが対応できる範囲

DNA Makerは、エージェント基盤、オーケストレーター、専門エージェント、MCP/API連携、権限、トレース、評価、コストとレイテンシの監視を開発できます。仕事の状況に応じてツールやエージェントをオン・オフできる管理画面も用意します。

複数の役割の専門家が関わる業務で、引き継ぎのたびに文脈が失われているなら、一緒にエージェントの責任分担マップ(Agent Responsibility Map)を作り、最終的な結果の責任は人に残したまま、1つの流れを試験導入できます。

ソフトウェア開発用語集

ここに挙げる用語は、マルチエージェントのシステムにおける調整役、引き継ぎ、権限、トレースを説明するものです。それぞれの役割に本当に担当範囲と合格基準があるのか、図の上に名前が並んでいるだけなのかを確かめるときに使ってください。

用語意味わかりやすい例開発チームへの質問
Orchestratorエージェントの仕事の順番を制御し、取りまとめる役。オーケストレーターは計画と全体の状態に責任を持つが、すべての権限を自分で抱えるべきではない。各ツールは、それぞれの仕事に必要な権限を引き続き自分で確認するマネージャーエージェントが専門エージェントを呼び出す最終的な結果には誰が責任を持つのですか?
Handoff制御を別のエージェントに移すこと。よい引き継ぎでは、事実、根拠、すでに試したこと、引き継ぐ理由をまとめて渡すので、受け取った側がすぐに判断できる返金の案件を返金エージェントに回すどのコンテキストを渡し、何を除外するのですか?
Agent as Toolマネージャーが制御を握ったまま、エージェントにサブタスクを手伝わせる方式。専門エージェントを、入力と出力が明確なツールのように呼び出せる形に包むので、エージェント同士の制御できない会話が減る調査エージェントが調べた結果をマネージャーに渡す部分的な結果は、まとめる前にどう確認するのですか?
Least Privilege必要最小限の権限だけを与えること。その仕事とその時間帯に必要なアクセスだけを許可し、指示が誤っていたときや、データが想定外の範囲で使われたときの影響を抑えるコンテンツエージェントはデータを読めるが、メールは送れない役割が変わったとき、権限を見直していますか?
Tracingシステムがたどった処理の段階とツールの呼び出しを順に記録すること。よいトレースは、入力、モデル、プロンプト、ツール、出力、時間、コストを結びつけるので、チームは原因を突き止め、回帰テストを作れる流れがどの段階で止まったかを確認するトレースのデータはどう保護し、どれくらいの期間保存するのですか?

関連資料(原典):https://openai.github.io/openai-agents-js/guides/multi-agent/

明日試せること:顧客や社員がいくつもの画面を行き来しなければならない作業を1つ選び、求める結果と、人の承認が必要な箇所を書き出してみてください。「チャットボットがほしい」から考え始めるより、はっきりしたAIプロダクトのアイデアが見えてきます。