ARTICLE 12 · AI GOVERNANCE · 2026-10-21

生成AIの社内利用ルール:タイのPDPAに沿った10項目

社員はすでにAIを使っています。問題は、どのアカウントで、どのデータを入れているかです。承認済みツールの一覧、データ区分表、ミスをしたときの連絡先を載せた1枚のルールは禁止令より効き、1週間で書き上げられます。

生成AIの社内利用ルール:タイのPDPAに沿った10項目
要点
  • 社員はすでにAIを使っています。禁止しても、会社から見えない私物のスマートフォンに移るだけです。
  • 守られるルールは1枚で、10項目からなり、会社が承認したツールとセットで配ります。
  • 個人データは独立した区分にします。データが外に出ても、タイの個人情報保護法(PDPA)上の責任は会社に残るからです。
  • ルールの責任者を1人決め、報告の窓口を作り、半年ごとの見直しを予定に入れます。

AIを禁止すると、会社には何も見えなくなる

営業はお客様への返信をAIに下書きさせ、経理はExcelファイルの要約をAIに頼みます。その多くは、個人のメールアドレスで登録した無料アカウントです。会社が承認していないAIの業務利用をシャドーAIと呼び、禁止を通達した会社でも起きています。

禁止しても利用は止まりません。社員は自分のスマートフォンで使い続け、顧客データが漏れたとき、会社が知るのは最後です。機能するルールは、どのツールを、どんなデータに使い、迷ったら誰に聞くかをはっきり書きます。禁止、法人プラン、社内AIのどれを選ぶかまだ決まっていなければ、先に社員が顧客データをChatGPTに貼り付けるときをお読みください。

1枚のルール、10の項目

社員が覚えていられるルールは1枚までです。ツール一覧とデータ区分表は別紙にし、本体を出し直さずに更新できるようにします。下の例文はそのまま使えます。

日系企業のタイ拠点では、本社のガイドラインを日本語のまま配るだけでは足りません。お客様とのLINEのやり取りや従業員の書類をAIに貼り付けるのは、タイ人スタッフだからです。本社の方針とタイのPDPAの両方を反映した1枚をタイ語と日本語で用意し、二つの版が食い違ったときにどちらを優先するかも書いておきます。

1. 目的と適用範囲:「会社の業務にAIを使う社員、業務委託先、インターンに適用します。私物のスマートフォンでの利用も含みます。」 2. 承認済みツールとアカウント:「別紙に載っているツールだけを、会社のアカウントで使います。追加の申請はIT部門へ。」 3. データ区分:「データは公開、社内、個人データ、機密の4区分です。どこに入れてよいかは別紙の表に従います。迷ったら上の区分として扱います。」 4. お客様と従業員の個人データ:「業務に不要な氏名、電話番号、身分証番号は削除します。健康情報などのセンシティブデータは、事前にDPOの承認を得ます。」 5. 出力の確認:「AIの出力は下書きです。使う人が原本と照らし合わせてから外に出し、自分で書いたものと同じ責任を負います。」 6. お客様への開示:「自動応答と話しているお客様には最初のメッセージでそう伝え、担当者への切り替えにも応じます。」 7. 権利と記録:「AIを使った成果物も、ほかの業務と同じく雇用契約に従います。お客様に納める成果物のプロンプトと出力は、その文書と同じ期間保存します。」 8. 事故と連絡先:「区分の違うデータを入れてしまったら、当日中に[氏名と連絡手段]へ報告します。報告したことを理由に処分はしません。」 9. 研修と同意:「全員が1時間の研修を受け、このルールに同意してから会社のAIアカウントを受け取ります。」 10. 半年ごとの見直し:「[ルールの責任者]が半年ごとに見直します。法律やベンダーの条件が変わったときは前倒しします。」

社員が顧客データをAIに貼り付けたとき、PDPAは何を求めるか

集めた顧客データについて、会社はタイの個人情報保護法(PDPA、仏暦2562年=西暦2019年制定)上のデータ管理者です。社員が顧客リストをAIに貼り付けると、データは外部の事業者に渡りますが、責任は会社に残ります。

2026年10月、タイ個人情報保護委員会事務局(PDPC)は、AIにおける個人データ保護のガイドラインを公表しました。法的拘束力はありません。PDPAと合わせて読むと、ルールで押さえるべき点は四つです。

- プロンプト、利用ログ、AIの回答も、個人を特定できるなら個人データになりえます。 - 顧客データを自社の目的でモデルの学習に使う事業者は、もう一つのデータ管理者になりえます。 - 事業者がタイ国外にデータを保存するなら、移転先の国に十分な保護水準が必要です。法律上の例外に当たる場合は別です。 - 漏えいが起きたら、PDPCへ遅滞なく、可能であれば把握から72時間以内に通知します。本人の権利を害するおそれが低い場合は除きます。リスクが高ければ本人にも知らせます。

タイのAI法案はまだ修正中で、デジタル経済社会省とETDA(電子取引開発機構)による組織向け生成AIガバナンスのガイドラインは2024年末に出ています。ですから、ルールは今日施行されているPDPAの上に作ります。海外の規則はこれから来るAIの規則にまとめています。本章は実務の手引きであり、法的助言には当たりません。発行の前に、法務部門またはDPOに確認してもらってください。

コーンケンで家電を分割払いで販売する会社(社名も詳細も架空です)。社長は以前、社員のLINEグループで「業務でのAI利用は禁止」と伝えていました。ある日、回収担当の社員が、延滞中の顧客200人分の名前、電話番号、残高を自分のスマートフォンの無料AIチャットボットに貼り付け、一人ずつ督促文を下書きさせました。そして会議で、そのことを誇らしげに話しました。

PDPAの担当も兼ねる人事マネージャーが事実を集め、チャットを削除し、PDPCへの通知が必要かを法律顧問と検討しました。全員が同じ結論に至りました。この社員には正しいツールがなく、誰に聞けばよいかも知らなかったのです。翌週、会社は1枚のルールを書き、回収チームに法人アカウントを用意しました。AIには顧客名を見せずに定型文だけを下書きさせ、名前と金額は自社のシステムが差し込みます。

4つのデータ区分と、入れてよいツール

社員が法律を覚える必要はありません。目の前のデータがどの区分かがわかれば十分です。多くの会社にはすでにデータ分類の仕組みがあります。AIのルールで加えるのは、個人データを独立した区分にすることだけです。PDPAに固有の決まりがあり、お客様とのLINEのやり取りや応募書類のように、毎日の業務に出てくるからです。

4区分の表:どこに入れてよいか

  1. 質問1 氏名、電話番号、身分証番号など、人にたどり着く情報がありますか。あれば個人データです。
  2. 質問2 漏れたら、契約違反や会社の不利益になりますか。なるなら機密です。
  3. 質問3 すでに公表済みですか。そうなら公開です。残りは社内です。

迷ったとき: 一つ上の区分にします。質問1と質問2の両方に当てはまれば、機密のルールに従います。

入れる前に削る: 名前を「顧客A」のような記号に置き換えます。本人にたどり着けなくなれば、社内の区分に下がります。

データ区分使えるツール条件例
公開どのAIでも可(無料アカウントを含む)使う前に出力を確認Webサイトの製品情報、発表済みのニュース
社内承認済みの法人アカウント会社のアカウントでのみログイン社内手順、顧客名のない議事録
個人データこの区分向けに承認した法人アカウント(データを学習に使わないと契約に明記)本人に伝えた目的の範囲で使う。不要な部分は削る。センシティブデータはDPOが承認お客様とのLINE OAのやり取り、応募書類、債務者リスト
機密プライベートLLMまたは社内システムデータの持ち主が都度承認し、利用記録を残す製造レシピ、NDA付きの契約書、発表前の決算、ソースコード

誰かがミスをしたら、誰が、いつまでに何をするか

備えておくべき事故は、区分の違うデータを違うツールに入れてしまうことです。報告の手順は、当日中に報告しようと思えるほど短くします。PDPAの72時間は、会社が把握した時点から数えるからです。

1. ミスをした本人、または気づいた人が、当日中にルールの責任者へ報告します。 2. インシデントを記録します。どのデータか、何人分か、どのツールか、誰のアカウントか。 3. 可能ならチャットを削除し、共有リンクを無効にし、アカウントが漏れたならパスワードを変えます。 4. DPOが、PDPCや本人への通知が必要かを72時間に間に合うよう判断します。 5. 原因を直し、この事例を研修に加えます。

半年ごとの見直しでは、ツール一覧が実際の利用と合っているか、ベンダーの条件が変わっていないか、新しい法律がないかを確認します。

下書きから発行まで1週間

3か月かけて書いたルールは、発行した日にはもう古くなっていることがよくあります。最初の1週間は使える版を目指し、見直しのたびに直していきます。

- 月曜日:どの部署が、どのAIを、何に使っているかを匿名で調べます。 - 火曜日:ツールを選び、法人アカウントを開きます。ChatGPT Enterprise、Microsoft 365 Copilot、Google WorkspaceのGeminiは、許可なく法人顧客のデータをモデルの学習に使わないと明記しています。ただし、実際に契約するプランの条件を読んでください。 - 水曜日:1枚のルールと4区分の表を下書きし、法務またはDPOに読んでもらいます。日系企業では、この日にタイ語版も用意します。 - 木曜日:部署ごとに1時間、その部署の実際の仕事を使って研修します。 - 金曜日:発行して全員に同意してもらい、最初の見直し日をカレンダーに入れます。

ルールが失敗する3つの形

一つ目は全面禁止です。社員は会社から見えない場所で使い続けます。二つ目は、承認済みツールのないルールです。社員は無料アカウントに戻ります。三つ目は責任者のいないルールで、質問に答える人も見直す人もいません。発行の前に、下書きをこのリストで確認してください。

  • 適用範囲に業務委託先と私物のスマートフォンを含めた
  • ツール一覧と追加申請の方法がある
  • 自社の例を入れた4区分の表がある
  • センシティブデータの承認者を決めた
  • 出力を使う人が責任を負うと書いた
  • お客様に知らせる場面を書いた
  • 残す記録と保存期間を書いた
  • 事故の報告先の名前と、報告者を処分しない約束がある
  • 全員がアカウントを受け取る前に同意する
  • ルールの責任者と次の見直し日がある
開発チーム向け · SSO、DLP、ログ、プライベートエンドポイント

SSO:承認済みツールへのログインは、Microsoft Entra IDやGoogle Workspaceなど会社のIDプロバイダー経由にし、退職日にアカウントを止められるようにします。プロキシでテナント制限をかけ、個人アカウントを遮断します。DLP:タイのデータ形式を追加します。チェックサム付きの13桁の国民ID番号、06・08・09で始まる携帯電話番号、銀行口座番号です。承認していないAIのドメインに貼り付けられたら警告またはブロックします。ログ:法人アカウントの監査ログをSIEMに送り、保存期間を決め、閲覧者を絞ります。プロンプトを含むログ自体が個人データになりうるからです。プライベートエンドポイント:APIでモデルを呼ぶ処理は、選んだリージョンのプライベートエンドポイント、または送信前にPIIを除く社内ゲートウェイを通します。機密データは自社サーバー上のプライベートLLMで扱います。

DNA MAKER · AI GOVERNANCE

研修の場で書くルールと、守れる仕組み

守られるルールは、たいてい自分で使う人が書いたものです。DNA Makerの社内AI研修については、タイ人スタッフ向け社内AI研修をご覧ください。

ルールに仕組みが必要になったら、私たちのFDEチームが御社のチームの中に入り、すでにお使いのツールの上に、役割に応じた権限、監査ログ、PDPAに沿ったデータの扱いを整えます。機密データには、御社の環境にプライベートLLMを置きます。プロジェクトのメンバーは全員DNA Maker自身のチームで、外注はしません。500件以上の実績には、銀行、病院、タイの大手企業グループの仕事が含まれます。AIトランスフォーメーションのページから、またはチャットページのDreamにご相談ください。

ソフトウェア開発用語集

用語意味わかりやすい例開発チームへの質問
シャドーAI会社の承認なく業務に使われるAI私物のスマートフォンの無料チャットボット各部署がどのAIを使っているか把握していますか?
データ分類漏れたときの損害に応じてデータを区分すること発表済みのニュースとNDA付きの契約書を分けるどの区分か迷ったとき、誰が決めますか?
PII直接または間接に個人を特定できる情報債務者の氏名、電話番号、残高AIに送る前にシステムで削除できますか?
DLP重要なデータが社外に出るのを止める仕組みAIのWebサイトに身分証番号を貼ると警告が出る私たちのDLPはタイのデータ形式を認識できますか?
監査ログ誰が、いつ、どのデータで何をしたかの記録先月、誰が顧客ファイルをAIに送ったかを確認できるログはどれくらい保存し、誰が閲覧できますか?
明日試せること: 各部署の責任者に二つ質問します。チームはどのAIを何に使っているか。顧客や従業員のデータを入れたことはあるか。答えが誰の評価にも影響しないことも伝えてください。返ってきた答えが、ルールの2項目めと3項目めの最初の下書きになります。