- 企業が数字で測れるAIのメリットは7つあり、どれも日常業務から生まれます。
- どのメリットにも、今使っているシステムから取ったベースライン(導入前の基準値)が必要です。導入後の数字はこれと比べます。
- それぞれに効果が出ない条件があります。
- 削減できた時間がコスト削減になるのは、その時間を誰かが使ったときだけです。
企業のAI導入メリットは、導入前に取る数字から始まります
経営者がAIで何ができるかを尋ねると、返ってくるのは「速くなる」「正確になる」「安くなる」といった広い答えです。どれも、今その業務に何時間かかり、どれくらい間違い、どこで止まっているかを知るまでは確かめられません。この数字の組をベースライン(導入前の基準値)と呼びます。
以下の7つには、効果が出る業務、指標と基準値の取り方、効果が出ない条件を書いています。時間を金額に換える計算式は自社は手作業に毎月いくら払っているのか?にあります。タイで事業を行う日系企業では、タイ語の書類やLINE公式アカウントでの問い合わせが、この7つの舞台になることが多くあります。
1. 書類が受信からシステム登録まで早く進む
効果が早く出るのは、量が多く、形式が似ていて、システムに打ち直している書類です。仕入先の請求書がその例です。AIはタイ語の書類をOCRで読み、発注書と照合し、一致しないものだけを人に回します。
指標は二つです。サイクルタイムは書類が届いてから登録が終わるまでの時間で、待ち時間を含みます。作業時間(Touch Time)は人が一枚に実際に手をかけた時間です。サイクルタイムの基準値は、メール受信時刻とERPの登録時刻から取れます。作業時間は、実物30枚程度をストップウォッチで測ります。
効果が出ないのは、時間の大半が承認者の待ちにある場合です。作業時間は減ってもサイクルタイムはほとんど動きません。スキャンが不鮮明な書類も例外キュー(人の判断待ちの案件一覧)に積み上がります。
2. 顧客への回答が速くなり、どの窓口でも同じ答えになる
効果が出るのは、LINE公式アカウント、ウェブサイト、メールで同じ質問が繰り返され、答えが書類やシステムにある場合です。注文状況や保証条件などです。AIは答えられるものに答え、範囲外のものは要約を付けて担当者に渡します。
指標は、初回応答時間(中央値と90パーセンタイル(P90))、担当者に渡さずに完結した割合、抜き取りチェックで上長が修正した回答の割合です。基準値は過去のチャット履歴から取り、時間帯別に分けます。営業時間外の質問がいちばん長く待たされていることが多いためです。
効果が出ないのは、価格交渉のように判断が必要な質問が大半の場合と、AIが参照する書類を誰も管理していない場合です。
3. 締め後のレポートが早く仕上がる
経営報告は、複数のシステムからExcelにデータを集める作業に時間を取られます。AIはデータを集め、変化の説明を下書きし、異常な項目を人の確認用に示します。
指標は、締め日からレポートが経営陣に届くまでの営業日数と、手作業のコピー&ペーストの工程数です。基準値は、直近3〜6回分のレポートの送付日と、担当者がレポートを一度作るのを横で見ることで取れます。
効果が出ないのは、営業部門が締め後に数字を直すなど、元の数字がまだ動く場合です。AIは間違ったレポートを速く作るだけです。
4. 承認が机の上で止まらなくなる
購買申請や与信枠の承認は、書類が足りない、あるいは承認者が待っている案件に気づいていない、という理由で止まります。AIは提出前に不足を確認し、承認者がふだん開く窓口に届けます。
指標は、提出から回答までのリードタイムと、システムだけで完結せず人が見る案件の割合である例外率です。メールや紙で承認しているなら、開始前の4週間、提出時刻と承認時刻を記録しておきます。業務の流れ全体でサイクルタイムを縮めた例はAIワークフローで、3日かかる仕事を3時間に縮めるにあります。
効果が出ないのは、すべての案件に5段階の承認が必要といった、規程が原因の場合です。案件は速く届いても、判断する人の時間は変わりません。
5. 社員が社内ナレッジから自分で答えを見つけられる
規程、製品マニュアル、契約条件は、あちこちのフォルダに散らばっています。社内の書類を検索してから答えるAI、いわゆるRAGを使うと、社員はタイ語や日本語で質問し、元の書類へのリンク付きで答えを受け取れます。
指標は、1件の質問で答えを探すのにかかる時間と、正しい版の書類を引用した回答の割合です。基準値は、社員の一部に2週間、質問と探した時間を記録してもらって取ります。
効果が出ないのは、書類が古い場合、複数の版が食い違っている場合、大事な知識が一度も書き残されていない場合です。
6. 品質チェックで手戻りが減る
AIは、仕事がチームの手を離れる前に、はっきりしたルールで確認します。価格表と合わない見積書や、納税者番号の誤ったタックスインボイスなどです。満たさないものは理由を付けて人に戻ります。
指標は、手戻りの割合と、出荷前に見つけた誤りと出荷後に顧客が見つけた誤りの比較です。基準値は、過去のクレジットノート、返品、苦情記録から取れます。
効果が出ないのは、ルールがあいまいな場合と、警告が多すぎて誰も読まずに通してしまう場合です。
7. 新人がひとりで仕事を回せるまでが短くなる
社内マニュアルから答え、実際のシステムで手順を案内するAIアシスタントがあると、新人が周りに質問する時間が減ります。
指標は、上長が決めた基準(たとえば注文を20件続けて誤りなく入力できる)に新人が届くまでの日数です。基準値は、同じ職種に前回入った人たちの記録から取ります。
効果が出ないのは、採用が年に数人で数字が少なすぎて比べられない場合と、AIが答えるためのマニュアルがまだない場合です。
| メリット | 指標 | 効果が出る業務 | 効果が出ない条件 |
|---|---|---|---|
| 1. 書類処理 | サイクルタイム、作業時間 | 仕入先の請求書 | 時間の大半が待ち |
| 2. 顧客への回答 | 初回応答時間 | LINE公式アカウントの繰り返しの質問 | 判断が必要な質問 |
| 3. レポート | 締めから提出までの日数 | 経営報告 | 元の数字がまだ動く |
| 4. 承認 | リードタイム、例外率 | 購買申請、与信枠 | 原因が規程 |
| 5. 社内ナレッジ | 1件あたりの検索時間 | 規程、マニュアル、契約 | 書類が古い、食い違う |
| 6. 品質チェック | 手戻り率 | 見積書、タックスインボイス | ルールがあいまい |
| 7. 新人の立ち上がり | 基準到達までの日数 | 定期採用がある職種 | マニュアルがない |
同じ種類の業務で、導入前と導入後を測る
導入前と導入後を比べられるのは、同じ種類の業務を、似た時期に、同じ方法で測った場合だけです。長く止まった少数の案件が平均をずらすため、中央値とP90を並べて報告します。比較グループを置いて、変化がAIによるものだと示す方法はAIの成果を、自分をごまかさずに測るにはで説明しています。
架空のケース
パトゥムターニー県の自動車部品販売会社(社名・内容は架空)は、数百社の仕入先から届くタイ語の請求書を一枚ずつERPに打ち込んでいます。財務責任者は予算を承認する前に、AIによる書類読み取りで何が変わるのかを知りたいと考えています。
チームは過去4週間のメール受信時刻とERPの登録時刻を抜き出し、サイクルタイムの中央値とP90を出し、30枚の請求書で作業時間を測りました。わかったのは、時間の大半が各部門の責任者による検収確認の待ちだということです。OCRだけを入れても、数字はほとんど動きません。
そこで四半期の試験導入を二本立てにしました。最大の仕入先グループへのOCRと、検収を確認する人へのリマインダーです。ほかの仕入先は比較用に従来どおり処理します。始める前に財務責任者は、浮いた時間を月次決算の前倒しに使い、月末の臨時スタッフの雇用をやめると書き残しました。四半期末の数字は、この二つが実際に起きたかどうかを示します。
AIは企業のコストをどう下げるのか
コストが下がる道は三つあります。同じチームが増員や残業なしで処理量を増やせること、誤りが減ってクレジットノートや再配送が減ること、待ちが短くなって入金が早まることです。
よくある落とし穴は、削減できた時間に時給を掛けて、それを削減額と呼ぶことです。その時間が一人ひとりの一日に数分ずつ散らばり、誰も使い道を決めていなければ、コストは変わりません。始める前に、浮いた時間をどの仕事に回すかを書き、それも測ります。そのうえでAIの総費用を差し引いてから、元が取れたかを判断します。どの部門から始めるかで迷っている場合は人件費を削減したいなら、AIはどの部門から導入すべきか?をご覧ください。
メリットが出たと言う前に
数字を経営陣に出す前に、次の7点を確認します。
- 基準値は、過去4週間以上の実データから取っている
- 導入前と導入後で、業務の種類、件数、時期がそろっている
- 中央値とP90を並べて報告している
- 例外キューに入った案件と、その処理にかかった社員の時間を数えている
- 品質を抜き取りで確認している(速さだけでは足りない)
- 浮いた時間がどこに使われたかを示せる
- 業務プロセスの責任者がこの数字を認めている
作る前に指標を決める、私たちの進め方
DNA MakerのAIプロジェクトは「理解」の段階から始まります。私たちはお客様のチームの隣で実際の業務を見て、経営陣が認める指標を決め、今お使いのシステムから基準値を取り、成功の基準をスコープに書き込みます。業務が打ち込みより人の判断待ちで止まっているとわかれば、そのことをはっきりお伝えし、先に承認の手順を見直すことを提案します。
そのうえで、ひとつのチームで試験導入を行い、毎週、実データにつないだデモとダッシュボードをご覧いただきます。担当するのはすべてDNA Makerのチームで、外部への再委託はありません。スコープと価格は作業開始前に確定します。こうした仕事を、私たちはタイの銀行、病院、大手企業グループで行っています。ご相談はAIワークフローのページから、またはチャットでDreamにお尋ねください。
SOFTWARE ENGINEERING GLOSSARY
ソフトウェア開発用語集
| 用語 | 意味 | わかりやすい例 | 開発チームへの質問 |
|---|---|---|---|
| ベースライン(Baseline) | システムを変える前の業務の値 | OCR導入前の請求書登録時間 | システムのデータからか、推測からか? |
| サイクルタイム(Cycle Time) | 業務が届いてから終わるまでの時間。待ち時間を含む | 請求書メールの受信からERP登録まで | 時間の大半は作業か、待ちか? |
| 作業時間(Touch Time) | 人が実際に手をかけた時間 | 請求書1枚の入力にかかる分数 | 浮いた時間を何に使うのか? |
| 90パーセンタイル(P90) | 案件の90%がその時間内に終わる値 | 承認10件のうち9件がこの時間内に完了 | 遅い案件も改善したか? |
| 例外率(Exception Rate) | 人が見る必要がある案件の割合 | 不鮮明なスキャン | 例外キューは誰が処理するのか? |
